まな板の上には先ほど買ってきたばかりのタイが乗せられている。そして横には荒塩の小皿。
総士はそれらを前に、考え込み、そして横に置いた端末を見る。
ディスプレイにはタイに塩を振る様子が映し出されてる。
一騎が見るところ、総士はその映像を、少なくとも10回は再生してみている。
「……総士。どうしたんだ。何か分からないなら聞いてくれよ。分かることなら言うから」
総士はゆっくりと腕を組んだ。
「では聞くが。……この塩ひとつまみ、というのはどのくらいの量のことだ?
何グラムなのか、いくら見てもはっきりしない」
一騎は思わず額を抑えた。
そんなもの、何度再生したって出るわけがない。
「……ひとつまみはひとつまみ、だよ。こう、指先でつまんで……」
「それだ」
総士は手真似していた、一騎の手を指さした。
「指でつまんで、というのは分かる。しかし、人によって指の大きさも違うだろう。
さらにつまめる量はそのたび違ってくる……なのに何故ひとつまみ、という曖昧な言い方をするのだろう?」
「だって……」
どう説明したらいいのか。
前にもこんな会話したよなあ……あの時は確か肉だった気が……。
せっかくの魚が痛む……。
額を軽く抑え、気付かれないようにため息をつく。
「前にテレビで見たことがあるんだ。一流の板前さんがやってたんだけどね」
それはまだ日本が存在していた頃のビデオだと思う。
一流の板前職人が魚に塩を振っていた。その量は決まっているのだ、という。
実際、彼が何度やっても、塩の量は4グラムだった。
それは長年磨いた技、とも言うべきものだろう。この魚に振る塩の量はこのくらい、と指先の感覚で覚えるのだ。
「4グラムと分かっているなら何故そう言わないのだ?」
「えと……そこは魚の大きさとか……」
「その時の魚はどのくらいの大きさだった?」
「…………このくらい、かな…………」
適当に手を広げて見せる。
「20センチほどか……」
「多分…………」
総士はまな板の上のタイを見る。くるり、と向きを変えると居間へ行く。
だいたいの予想はついていたので、一騎は頭を抱えた。
メジャーを手に戻ってきた総士を見て、やっぱり、とため息をつく。
「15.4センチ……すると3.4グラムの塩でいいのか」
「待ってくれ、総士。うちの計りはそこまで細かく計れないから!」
残念ながら、真壁家の台所にあるのは、昔ながらの古い計りなのだ。
「一騎。お前は料理人だろう。ならそのくらいの計りは用意しておいてしかるべきではないのか?」
「その前にとにかく一度魚を冷蔵庫に入れよう」
総士の返事は待たず、魚をさっさとくるんで冷蔵庫へしまい込む。
これでよし。あとは総士を説得にかかるか。
しかし、まったくもって自信がない。
何故いつも総士を説得できないのか。逆に自分が丸め込まれるのか。
さっぱり分からないが、とにかく努力はすべきだ。
早く美味しいタイの塩焼きにありつくためにも。
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